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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)3079号 判決

原告 竹村俊一

被告 国

訴訟代理人 松澤智 外五名

主文

被告は原告のために別紙目録記載の土地につき、名古屋法務局稲沢出張所昭和二五年三月三〇日受付第四九三号をもつてなされた所有権移転登記の登記抹消手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、本件土地がもと原告先代竹村為治郎の所有であつたこと、および同人が原告主張の日に死亡したことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉を綜合すれば、右竹村為治郎の遺産は、原告、訴外竹村茂留、同竹村昭夫、同伊藤なみを同伴房子の五名で相続したが、昭和四一年一月一日右相続人らの間において、もと竹村為治郎の所有にして昭和二二年一二月二日付買収令書によつて買収された土地は、すべて原告の単独所有とする旨の協議がなされたことが認められる。

二、本件土地が昭和二二年一二月二日当時訴外竹村為治郎の所有であつたこと、被告が自創法第三条に基づき右同日本件土地を買収し、原告主張の如き登記を経由したこと、および本件土地の買収令書の名宛人が訴外竹村茂留とされていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして〈証拠省略〉によれば、本件買収当時、本件の土地所有名義人は登記簿上も訴外竹村為治郎となつていたことが認められる。

してみれば、本件買収処分は被買収者を誤り、所有者でないものに対して買収処分をなしたことが明らかである。農地買収処分において、所有者でないものから農地を買収したことは重大な瑕疵であり、そして右土地が竹村茂留の所有でないことは登記簿の閲覧によつて何人も容易に知り得ることであるから、右瑕疵は明白であるといわなければならない。

竹村為治郎が右買収の事実を知りながら、これに対して異議を述べなかつたとしても、それによつて右瑕疵が治癒されるものではない。

よつて本件買収処分は無効であるというべきである。

三、被告は本件農地買収を登記原因として、本件土地につき前記の如き登記を有するものであるが、右農地買収処分が無効である以上、右登記も無効であるから、被告は原告のために右登記を抹消すべき義務を負うものといわなければならない。

四、よつて原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 上野精 将積良子)

別紙目録〈省略〉

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